町かどの戦争体験03（結婚から出征へ）

結婚から出征へ

（地名はほとんど当時の表記にしておりますが、人名はすべて仮名です。）

　昭和１８年２月に和江は父の勧めで見合いをした。相手は父が仕事で出入りしている既製服問屋に勤めていた村山俊雄で、和江はまだ結婚は望んでいなかったのだが、父の方が熱心だった。昔のことで２月に見合いをしてから特にデートもせず、次に会ったのが６月３日の結婚式当日という状態だった。　二人が住んだのは大阪市生野区片江町の、近鉄今里駅のすぐ北側で、以前から俊雄が住んでいた家だった。２階からは近鉄今里駅のホームが見えていた。広い庭があって大きな防空壕も掘られていた。２人には充分過ぎる広さの防空壕だったが、ここで空襲を受けたことはなかった。　結婚して１年も経たない昭和１９年３月、夫の俊雄が軍隊（陸軍）に召集された。赤紙が来たはずだが現在は残っておらず、入営した日も和江ははっきりと覚えていなかった。入営の数日前に二人で撮った写真が、戦後６０年以上経ってから見つかった。俊雄は軍服を着て和江は着物姿で、街の写真館で撮った写真のようだったが、写真を撮ったことも和江は覚えていなかった。　入営してから外地へ赴くまで２ヶ月ほどだったが、俊雄は下士官待遇だったので２回ほどは休みの時にお供の兵士を連れて家に帰って来た。また一度は和江と父と妹の芳恵の３人で兵舎に面会に行ったことがある。おはぎを重箱に詰めて持っていった記憶が和江にはあったが、その兵舎がどこにあったのかは覚えていない。親戚が大阪・天満橋で和菓子屋をしていたので、小豆や砂糖はそこから分けてもらっていた。　　和江は夫が外地へ出征したことは知らされなかったので、知らない間に海を隔てた別れになってしまっていたのだったが、俊雄は日本を離れる時の日程をメモ書きにして残していた。　それによると５月２０日に門司着となっている。関西の兵舎から門司までは国鉄の列車で行ったのだろう。後述する義母への絵葉書に、福山の父の墓前を列車で通過したことが記されている。　そして５月２３日に門司から外地へ行く船に乗った。船名はメモでは「祐山丸」となっていた。船は２４日に門司を出航、２８日には博多へ一度寄港してから６月４日に青島（チンタオ）へ到着した。６日に青島を出航後もメモには中国各地の地名が続いている。　メモは１９年１０月５日で途切れている。当時の支那全図（資料編３参照）が残されており、行ったところの地名に赤丸がついている。この地図とメモを見比べると俊雄の行軍状況がわかるかもしれない。昭和１９年５月に日本を離れてから、２１年４月に復員するまで約２年間の外地での従軍になった。　俊雄が出征してからも和江はしばらく一人で生野区片江町に住んでいた。秋頃には弟も軍隊に招集され、和江のところへ挨拶にやって来た。その後、戦争が激しくなりそうだったので、和江は実家（東区糸屋町）で父母と一緒に住むようになった。　１９年の冬？には俊雄は海南島から和江と福山の義母にあてて絵葉書を出しているが、父が受け取って忘れていたのか、和江の手元に渡ったのはずいぶん後になってからであった。（資料編１参照）　また俊雄は中国へ出征した後、昭和１９年１１月に広東省で「マラリア三日熱」にかかっていたことが、戦後にもらった従軍証明書に記載されている（資料編２参照）が、和江への絵葉書にはもちろんそのことは書かれていなかった。　和江には芳恵と美代子という二人の妹がおり、実家のすぐ前の中大江東国民学校に通っていた。戦争が激しくなると学童疎開が始まったが、疎開するのは３年生以上で、１・２年生は親元にとどめられた。　５年生の芳恵は滋賀県蒲生郡安土村へ疎開させられたが、そこで扁桃腺炎を患ってまた親元へ帰されてしまった。和江と父母と妹二人の５人で２０年３月の大阪大空襲を迎えることになる。

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